暗号資産の相続で起こりがちな落とし穴|税制見直しと多重課税リスクを整理

こんにちは。

税理士法人を母体に中小企業・資産家向けにサービスを展開するアイユーコンサルティンググループです。

まだまだ寒い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

「暗号資産を持っているけれど、売却すると税金が高そう」

「相続のときにどう扱われるのか分からない」

そんな不安を感じたことはありませんか。

実は暗号資産は、相続の場面で想定外の税負担を生む可能性がある資産です。場合によっては、「相続したのに手元にお金が残らない」という事態も起こり得ます。

本記事では、昨年末に公表された税制改正大綱で示された暗号資産の課税制度見直しの方向性を軸に、相続が発生した場合に直面しやすい課題と、今から考えておきたい対策を解説します。


1. 金融資産としての地位を確立しつつある「暗号資産」

暗号資産は、いまや一部の人だけの投資対象ではなく、社会に広く浸透した金融資産となりつつあります。実際、国内の交換業者における口座開設数は**延べ1,300万口座超(2025年10月時点)**とも示されています。

こうした状況を踏まえ、令和8年度税制改正では、特定暗号資産の譲渡益について、申告分離課税(税率20.315%)へ移行する方針が示されました。あわせて、特定暗号資産の譲渡所得内での損失の繰越控除(3年間)も導入される予定です。

これにより、たとえば次のような変化が見込まれます。

  • 総合課税(最大55%)からの移行による、税負担の見通しの立てやすさ

  • 税額計算の簡素化

  • 損失が出た場合のリスク軽減(損失繰越の導入)

一方で注意点もあります。

  • 分離課税の適用は、最短でも令和9年1月1日以降とされていること

  • 対象はあくまで「特定暗号資産」に限られること

  • 制度移行の過渡期に相続が発生し、不用意に売却すると、従来どおり総合課税が適用され、想定以上の税負担が生じる可能性があること

※特定暗号資産の定義や具体的な対象範囲は、今後の公表・整理を要する部分があります(本稿作成時点:令和8年1月末)。


2. 独自の技術が支える「資産性」と成長の軌跡

暗号資産が注目されてきた背景には、基盤となる「ブロックチェーン技術」への信頼があります。分散型台帳技術により管理される暗号資産は改ざんが極めて困難で、中央集権的な法定通貨や企業の信用に依存する電子マネーとは異なる自律性を持っています。

代表的な暗号資産であるビットコイン(BTC)は、この10年で約500倍という成長を遂げました。仮に10年前に10万円分のビットコインを購入していれば、現在は約5,000万円の価値を有することになります。

このように大きく成長した資産をどう次世代に引き継ぐかは、近年の資産承継において避けては通れないテーマとなっています。


3. 相続時に直面しやすい「多重課税」という現実

暗号資産の承継で特に注意したいのは、相続税と、売却時の所得税・住民税が重なって発生し得る点です。暗号資産が「負の資産」になり得る理由は、次のとおりです。

  • 相続時点の時価をもとに相続税が課される

  • その後売却すると、取得価額との差額に所得税・住民税が課される

  • 売却のタイミングや適用税率によって、手元に残る金額が大きく変わる

その結果、「相続によって多額の資産を取得したはずなのに、税金を支払った後に想定ほど現金が残らない」といった事態が起こり得ます。


4. 【ケース比較】売却タイミングと課税方式で、手残りはどう変わるか

ここでは、次のケースを想定し、売却タイミング(相続前/相続後)と課税方式(総合課税/申告分離課税)の違いで税負担がどう変わるかを整理します。

【前提】

資産総額:3億円(不動産1億円、現預金1億円、暗号資産1億円※取得価額100万円と仮定)を子2人へ相続する

※特定暗号資産の売却時と相続発生時の時価が同じであり、暗号資産の譲渡の翌年に相続が発生するとします。

※以下、万円未満切り捨て


1)総合課税方式の場合

(1)相続発生前に暗号資産を売却した場合

① 暗号資産の譲渡所得にかかる所得税・住民税額

(時価1億円 − 取得価額100万円)×55.945% − 4,896,716円 = 5,048万円

② 相続税額の計算

(3億円 − 所得税・住民税額5,048万円 − 基礎控除額4,200万円)= 2億752万円

{(2億752万円÷2)×40% − 1,700万円}×2 = 4,900万円

③ 税引後の手残り額

3億円 −(①+②)= 2億52万円

(2)相続発生後に暗号資産を売却した場合

① 暗号資産の譲渡所得にかかる所得税・住民税額:5,048万円(上記と同じ)

② 相続税額の計算

(3億円 − 基礎控除額4,200万円)= 2億5,800万円

{(2億5,800万円÷2)×40% − 1,700万円}×2 = 6,920万円

③ 税引後の手残り額

3億円 −(①+②)= 1億8,032万円


2)申告分離課税方式の場合

(1)相続発生前に暗号資産を売却した場合

① 暗号資産の譲渡所得にかかる所得税・住民税額

(時価1億円 − 取得価額100万円)×20.315% = 2,011万円

② 相続税額の計算

(3億円 − 所得税・住民税額2,011万円 − 基礎控除額4,200万円)= 2億3,789万円

{(2億3,789万円÷2)×40% − 1,700万円}×2 = 6,115万円

③ 税引後の手残り額

3億円 −(①+②)= 2億1,874万円

(2)相続発生後に暗号資産を売却した場合

① 暗号資産の譲渡所得にかかる所得税・住民税額:2,011万円(上記と同じ)

② 相続税額の計算:6,920万円(総合課税(2)②と同じ前提)

③ 税引後の手残り額

3億円 −(①+②)= 2億1,069万円


4)この比較から分かること(元原稿の結論を整理)

  • 所得税・住民税額は、相続開始の前後で(上の前提では)変わらない

  • ただし、相続開始前に売却することで、その税額分だけ相続財産が圧縮され、相続税の負担が軽くなる

  • 課税方式については、申告分離課税方式の方が有利になりやすい

今回のケースでは、結果として申告分離課税方式が適用される期間に、相続開始前の時期で売却するのが、税負担を抑えやすい、という整理になります。

同じ財産状況であっても、売却時期によっては**《3,800万円》ほど手残りが異なる**こともあり得るため、タイミングの選択がいかに重要かが分かります。

なお、総合課税(改正前)でも、他の所得と合わせて税率が20%以下の範囲(所得330万円以下)で収まるように売却するのであれば、改正前に売却してもよい可能性があります。


5. 財産を守り抜くための「出口戦略」と「共有」

暗号資産の相続リスクを抑えるには、早い段階からの準備が重要です。

(1)出口戦略の検討

暗号資産を「持ち続ける」のか「段階的に売却する」のか。分離課税への移行時期も見据え、

「いつ、どの程度売却し、いくら残すのか」を事前にシミュレーションしておくことが、過度な税負担を避けるポイントになります。

(2)財産状況の可視化と共有

暗号資産はデジタル資産のため、保有者以外からは存在が見えにくい特徴があります。口座情報や管理方法を整理し、ご家族と共有しておくことは、円滑な相続のために欠かせません。

(3)ポートフォリオの見直し

暗号資産の税制が変わることで、不動産・預貯金・株式との組み合わせ方も変わります。

流動性の高い資産としてどの位置づけにするのか。新制度を前提に、資産全体を見直す良い機会と言えるでしょう。


まとめ

税制が大きく変わる局面は、これまでの資産の持ち方や承継方法を見直す絶好のタイミングです。暗号資産は、大きな成長力を持つ一方で、税制や管理面での特殊なリスクも併せ持っています。

  • 成長を期待して保有し続けるのか

  • 税負担や安定性を重視して整理するのか

大切なのは、制度を正しく理解したうえで、ご自身やご家族のライフステージに合った選択をすることです。「いくら残るのか」「いつ動くべきか」を一度整理してみることで、将来への不安が和らぐかもしれません。

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